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sanbonmatsu

1 注目に価することだが、なにも起こらない第一章
大西洋上に低気圧があった。それは東方に移動して、ロシア上空に停滞する高気圧に向かっていたが、これを北方に避ける傾向をまだ示してはいなかった。等温線と等夏温線はなすべきことを果たしていた。気温は、年間平均気温とも、最寒の月と最暖の月の気温とも、そしてまた非周期的な月の気温の変動とも、規定どおりの関係を保っていた。日の出と日の入り、月の出と月の入り、月、金星、土星環の位相、ならびに他の重要な現象も、天文学年表中の予想と符合していた。大気中の水蒸気は最高度の張力をもち、大気の湿度は低かった。以上の事実をかなりよく一言で要約するとすれば、いくらか古風な言い回しにはなるけれども-----それは、一九一三年八月のある晴れた日のことだった。
『特性のない男?』ムジール(加藤二郎訳)

こんなとんでもなく人をナメた話が延々と続く、この小説を愛す。訳す方も訳す方である。
話はそれるが、小説はやはり縦書きで読みたい。
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