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sazanami


創世記ソドムの滅亡19章
「命がけで逃れよ。後ろを振り返ってはいけない。低地のどこにもとどまるな。山へ逃げなさい」(中略)ロトの妻は後ろを振り返ったので、塩の柱になった。


生きているかぎり否応なく別れという出来事と、幾度も幾度も向き合う事になる。
振り返らずにはいられない。


生きている者同士であっても、もはや死別と同じような別れもあるし、
死別こそが逆に遍在性を獲得することもある。


あるときから自分は別れの挨拶をすることがとても苦手なことに気づいた。
苦手というかうまくできないのである。
会社などのオフィシャルな場であってさえも、それがうまくできない。
なんとかはっきりとした別れの言明は避け、うやむやにしたい。
また後日会うだろう的な雰囲気で別れる。
いい大人が恥ずかしいことだが、別れの挨拶などはなんとしてでも回避したいことだった。それがなぜなのか自分でもよくわからなかった。


あるとき養老孟司氏の特集をテレビでやっていて、養老氏は昔挨拶ができない内気な少年で、それがあるときふと父の死と挨拶のできない自分は関係があるのではないのかと気づき涙が出たというエピソードを知る。父の遺体を前にさよならと言うことができなかったという。


自分は高校の頃だが同級生を亡くしていてそれは非常にショッキングな体験だったが、それが原因かはわからない。ただ自分もさよならという言葉は発したくない。というかここ何十年も使っていない言葉だったと思う。


人と別れることになったので、か細い声でなんとかさよならと言ってみた。
両肩に冷たい空気が絶え間なく降りて積もってくるような体感を味わう。とても冷たい。絶望そのものの。確かドストエフスキーだったか、おまえはもっと絶望できると言ったのは。何度も振り返った。



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