| Home |
2010.06.28
あなたによって夢見られたこと

今昔物語集には珠玉のストーリーがたくさんあるのだけど、ある夢についての物語がある。
ある人が夢を見た。
明日のお昼時に観音様が温泉に入られると言う。
しかもその年齢や容姿なども夢の中で詳しく告げられた。
その人は夢の内容を村々の人たちに話して回った。
村の人たちはおもしろ半分で湯のところで待っていると、
まさに夢のとおりに言われた時間に言われた姿の男がやってきた。
そこで皆驚愕し、ありがたがって礼拝するが、本人はなんのことやら分からない。
皆ぞろぞろと男の後ろをついてまわり拝む。
男は困り果て、どうして皆が自分を拝むのか尋ねると、そこにいた僧が元となった夢の話を説明した。
それを聴いた男は、それなら私は観音なのだろうと言い、そこで出家をする。
そしてその後比叡山に行き高僧の弟子となった。
そののち土佐をまわり、その後の消息を知る者はいない。
巻十九第十一話(fukashi訳)
いろんな解釈が成り立つだろうが、他者の夢をそのまま受け入れる男の世界観がすばらしい。通常?この物語は笑い話として流通しているようだが、みずからの宿命を他者の夢に見出すという受容の仕方は興味深い。自身の夢を受け入れるという一段を越えて、他者の夢さえも受け入れている。もしかしたら、自分の夢も他者の夢も同じみたいな融通性があったのかもしれない。そういえば夢というのは、つねになにか境界をトランスするものであるかのように働いている気がしてならない。
fukashi氏は10年以上も前に初めて会った女性からいきなり「あなたは~ですね」と言われて、その言葉がいまだにリフレインされて、影響を受け続けている。具体的なことは書かないけど、上記の夢のように自分を他者から同定されるというのは暗示というか魔力そのものだ。他者によってでしか自分というものを同定できないからだろう。
| Home |