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2010.06.10
突然、炎のごとく

みんな帰ってしまったオフィスはがらんとしていたけど、
そこにはどこか聖なるような尊いものが漂っているような気がした。
そこにはただ淡々と、夕陽が差し込んでいた。
浄められているような感じさえした。
光は波のように押し寄せている、と思った。
一定のように見えるけど、つまり力に強弱があるというか。
20代の頃は、皆が帰ったら自分も帰りたくなって、
なぜか下半身がむずむずしたのだけど、
いまは自分の仕事をきっちりやって帰りたいと思うようになった。
そういう自分になれたのは全部エンドウさんという上司のおかげだ。
人がなにかから学ぶというのは、理屈よりも間違いなく感化からの方が大きいよな。
染み込み方が違うというか。
まあ単に会社人間として馴致されていると言われればそれまでだが、
仕事というのは全部自分のためだということが最近やっとわかるようになってきた。
仕事だけではなくて、すべての自分の諸行は、すべて自分に返ってくる。
お金とかそういうことではなくて、ストレートに言えば成長というか、修行というか。
だから通常言われるような、真面目に働こうとか、努力は大切だ
とかいうところの出発点とは違う。
突然、炎のごとく、ひとはどこかに辿り着く。
たとえば外国語が自分のものになる時って、突然、炎のごとくだと思うよ。
ポール・オースターの『ムーンパレス』にはたしか「物語には続きがあるんだぞ」というフレーズが何度か出てくる。人生には、だったかもしれないが。いまはどちらでもいい。
終わりの早い映画や小説が散見される。
たとえばなにか事件が起きて、それが解決される。そして終わる。
でも本当に描かれるべきは、解決された後の後ではなかろうかと。
ずううっと、続きを生きるために僕は生きていると思った。
続きが知りたいというか。
その人間のそばにいると、その人の生き様みたいなものが、
理屈ではない方法で、まさに突然、炎のごとくに自分の中に入ってくる。
そのときもう世界の風景ははべつのものになっている。
オフィスに漂う塵が夕陽に当たって、きらきらと黄金の粉のように舞っていて、
そんなことを考えた。
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