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2010.04.03
肉 筆

檸檬の木が照り輝いていた。
書に関心があるせいか、人がちょっとしたメモ書きに書いた文字とか、ノートの字とか、公文書に書く字とかを注意深く見てしまう。まあ要は肉筆が好きなのである。
高校卒業したての新入生の書いた文字を見ると、文字もまた社会化される以前のもので弱々しい。まだ人格さえもっていないような骨のない文字だ。
自分の書く文字はずっと変わっていないように思えるが、10年前の書かれた文字は今とは全然ちがう。
書家の書よりも、無名の人や文人、政治家などの字が好きだったりする。
麻生元首相は最後までやり通したことと書だけは素晴らしかった。
昔はコピー機やワープロなんかなかったから、ぜんぶ毛筆で書かれている。
勝海舟はたしかオランダの本を2冊まるまる書き写して、1冊は自分のものに2冊は生計のために売った。
日本の現代宗教史をひもといていくと必ず大本教という教団に行き着くのだが、その教団の教祖である出口なおは文字を知らない天保生まれの女性なのだけど、あるときから神懸かりになり神の言葉を自動書記で綴るようになった。いまではこのとき書かれたものは燃えて残っていないのだけど、写真かなにかで残っていたのを見たことがあって、このときの文字が凄まじい。うまいとか下手とかの次元じゃなくて、もう怖いくらい迫力があるというか、剃刀の刃先を首筋に当てられたようなゾゾッとするものがある。
ワープロ文字が増えれば増えるほど、肉筆が好きになるのだった。
いまのひとはラブレターなんて書かないと思うが、まさかワードでラブレターは書けまい。
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