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2009.12.23
他者の露呈
ねこをぬこと呼ぶらしい。
生ぬるい外気温の一日。拍子抜ける。
寒さにたいして人は身体を萎縮させ、なんらかしらの構えをとる。無意識にでも。
構えていたのにもかかわらず、たいしたものでなかったとき、その構えの力をどこにもっていいけばいいのか、わからなくなる。案外寒くなかった今日は、そういった宙に浮いた力とともに世界の果てに取り残されたような、ぽつねんとした感覚に包まれていた。というか外より社内の方が寒かった。
今日は会社の営業用のための年賀状を上司の遠藤さんと延々つくっていた。遠藤さんは大真面目なのだが、どこか抜けていてそばにいて失礼ながらも、ずっとじぶんの笑いのツボにはまっていて笑いをこらえるのが苦しかった。会社のパソコンにはなぜか年賀状作成ソフトが異様にたくさんインストールされていて、「筆まめ」とか「筆王」とか「筆ぐるめ」とか「筆休み」とか「筆休め」とか、そのどれでやるべきかで遠藤さんはしばらく悩んでいて、時間がないので僕から「筆まめ」でやりましょうということで先導して作業していたら、遠藤さんは「筆王」と勘違いして作業を進めていて、そのへんでもう混乱がはじまり、同じ宛名をプリントしたりして、結局自分が全部やることになった。他者が露呈するのは、各人バラバラで動いているときではなく、同じ目的にしたがって各人が動いている場合に起こりやすいというようなことを阿部和重が書いていたのを思い出す。
遠藤さんが「筆王」での作業を中断して、保存ボタンを押した時にあるダイアログが画面に出た。
それには「ほんとうに保存してもいいのですか?」と出ていた。
普通、保存をしないときや削除をする際なんかに注意を促す意味で「ほんとうに…」という言葉がコンピューターから出てくるものだと思うけど、保存をするときに現れ出たのは初めてで、どうしていいかわからない遠藤さんはそれに相当動揺していて、ぼくは切羽詰まった忙しいこのタイミングで「ほんとうに…」のダイアログが出て、なおそれに呆然としている遠藤さんを見てツボにはまってしまった。こらえて社内を出て外で笑った。ほんとうに、ってなんなんだ。
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