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2009.11.26
『伝奇集』ボルヘス

男の瞑想は不意にとぎれたが、ある徴候は早くからそのことを教えていた。まず、(長い旱魃のあとで)小鳥のように軽やかな雲が遠い丘に現われた。ついで、南方の空が豹の歯茎めいた色を帯びた。それから、夜の鋼を銹びさせる煙が上がった。そして怯えた動物たちが走った。何世紀も前に起こったことが繰り返されたのである。火の神の聖域の廃墟は火によって破壊された。小鳥たちも姿を見せない夜明け、魔術師は、同心円を描く火が壁を囲むのを見た。一瞬、水中に逃れようと思ったが、しかしすぐに、その老いを飾り、苦労から解き放つために、死が訪れようとしていることを悟った。彼ははためく炎に向かって進んだ。炎はその肉を噛むどころか、それを愛撫した。熱も燃焼も生ずることなく彼をつつんだ。安らぎと屈辱と恐怖を感じながら彼は、おのれもまた幻にすぎないと、他者がおのれを夢みているのだと悟った。
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