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2009.11.22
帰還への実感
きのうの記事で書いた子どもの一言では表し難いにおいって、太陽のにおいのことではないだろうか。もっと精確に書くなら太陽に灼けたにおいというか。体臭とか服とかが、太陽にあたって発する独特なにおい。
大分市にあるミニシアター、シネマ5で「空気人形」を観に行く。いきなりペ・ドゥナのヌードに度肝を抜かれたけど、まあこの映画の感想は別の機会にするとして、東京でもミニシアターの経営というのは難しいのに地方でよく頑張っているなと感心した。経済原則にダイレクトに翻弄されるこういう文化的拠点は地方ほど厳しく、大分での映画鑑賞の成熟度はこの小さい映画館の存在のみで計ることができると言っても過言ではない。来月はビクトル・エリセ特集。ぜひ行きたい。
薄暗い小さな小屋に入り、フランス製の座り心地のいいシートに深く座って、上映前のスクリーンを覆うカーテンをぼおっと見ながら、いろんなことを考えていた。大分に帰郷してもうすぐ1年。還ってきた実感がずっとなかったのだけど、今日こうして地元の小さな映画館のシートに埋もれていたら、ああ還ってきたんだなあ…としみじみ動かしがたい事実として足下から実感が湧いてきた。深い心の底からの実感は何年も遅れてやってくるものなのだ。他人の死とか、出会いや別れ、喪失や達成。
映画館の外に出たら、まだ明るくて、小雨が歩道を濡らしていて、とても寒くて、今見た映画よりも映画以外のことを深く考えていた。シネマ5は自分にとってなくなってはいけない大切な場所のひとつとなった。
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