| Home |
2009.11.06
冬が立つ

いろいろなものが同時に照らされていた。等しく。
死んだしまった者は永遠に照らされることはない。
「百年、二百年あとから、この世に生まれてくる人たちは、今こうして、せっせと開拓者の仕事をしているわれわれのことを、ありがたいと思ってくれるだろうか」
『ワーニャ伯父さん』チェーホフ
冬は人を真面目にする。
団地の建物を照らす夕日を見ていた。
このところ世界がいとおしく感じる。
見るもの、触れるもの、匂ってくるものすべてが、あたりまえだがこの世界の限定的な現象であることに驚きと惜しさを感じる。
そういった現象のすべてを胸におさめたいと強く思うのだった。
それゆえにか、自分がなにかをこの世界で残さなければいけないとも強く思うのだった。
自分が生きた証をこの世界に残したいと願う感情を自分はいままでどこか馬鹿にしてきたところがあったけど、それは生きるということにあたってとても重要な欲望、残すというのはプレゼントに近い、大げさに言えば人類への刻印なのではないのかと実感できるようになった。それはひとり、ひとりそうなのだと思う。われわれはどこからか来て、そしてどこかへ去っていくのだし、そのことの厳粛さに比べれば、幸せがどうのとか将来がどうのとか全然本質的な話ではない。
| Home |