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2009.10.22
活劇の呼吸

きょうも朝日に輝く由布岳、麓に広がる一面黄金色のすすき、そして朝霧に沈みジオラマのように見えた由布院の街並み。この荘厳さに、なにか見てしまったものの責任を感じる。
なんだこれ。こんな奇蹟をなんども見ていいのか。
上司の遠藤さんが歯を替えた。
入れ歯なのか差し歯なのか、まだ聞いていないけど上の歯全部というから相当なことだ。まだ60前なのに。遠藤さんは若い頃、若気の至りで目が合ったとかなんとかで、喧嘩して歯を折られたこと。応援団長を務めていて、逃げるという選択肢はなかったことなどを聞いた。でもはめ具合がしっくりときていないのか、よく手で前歯をつかむというか持つ動作をするようになった。そう、歯を「持つ」という表現がふさわしい。口をあんぐり開けて、前歯を持つのだった。一瞬だけど。そうこうしているうちに、それが癖になったみたいで、よくその動作を見かけるようになった。でもその動作をするタイミングが絶妙でいつも驚かされてばかりだ。大事な説明を懸命にしていて、ちょっと息を継ぐ瞬間とか、お客さんが帰るときに失礼しましたと言って相手が頭を下げた瞬間とか、車をバックで駐車してもうすぐうまく入りそうになった瞬間とかに歯を持つ。遠藤さんは天然系の天才肌で、いつも凄いよと思って傍で見ている自分であった。
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