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2008.11.27
前人未踏とは
卓球の福原愛ちゃんが記者から「今年の目標は?」と聞かれて、即座に「目標はありません」と答えた時、ゾクッとしたものが背中を走った記憶がある。
「目標」を掲げてそれに向かって邁進せよ、とはよく言うけれど、「目標」というものに方向性を収斂させ絞り込んだ途端に、様々な可能性の枝葉が掻き取られていってしまう。卓球の世界に超人や達人といった、通常の域を超えてしまった選手がいるかどうか分からないが、福原愛の「目標はありません」の言葉には、金メダルや銀メダルといったもの以上の、「より大きなもの」へと志向する思いがあったのではないか。幼少期より跳ね返ってくる球を打ち返し続ける者だけが見える風景があるのだろう。
映画の脚本を書いていた経験から思うに、観客より前に自分を驚かせたいのだ。ここまできてしまったか、というオドロキのうちにある時、書いている「私」は消え、もはや映画の原理、世界の原理によって、書かされているという状態に近い。
もちろんそこには「目標」あるいはあらかじめ設定された結末というものはない。そんなところに収めていくなど、世界に対する冒涜であろう。
福原愛が卓球というゲームの中に、茫洋たる世界の深淵を見たとしても、考えすぎではあるまい。
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