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2009.09.12
どこまでもいこう

自転車に乗っていたら、さらした腕や顔に雨が落ちてくるのを感じた。
あまり濡らしたくない時計をはめていたので、外してポケットにいれる。
本降りになる前に家に帰る。
久し振りの雨。
そういえば今年の夏は雨が多かったことを思い出す。
雨音を屋内で聴くことの、なんらかの愉悦。
窓の外を目を凝らして見ると、やっと糸のような雨が
落ちているのがわかる。
その糸のような雨が等間隔のピッチで、窓をつたって落ちてきた。
それを見ているうちに僕は催眠にでもかかったのだろうか。
雨の日に飛行機に乗った。
離陸して雲を抜けたら、
天上は雨のない世界であることに気づいた。
厚い鉛色の雲の上に、ギラギラした太陽がどんといた。
飛行機はいつまでも角度30度くらいで上昇を続け、
その太陽に向かっているようだった。
よく見たら、スチュワーデスがいない。
機内放送も映画の放映サービスもない。
そのことに周りの乗客は誰も不思議に思っていなかった。
パイロット室の方を見ると、キラリと光るものが見えた。
僕は思わず、読んでいた新聞を置いた。
サバイバルナイフをもった男が静かに立っていたのが見えた。
飛行機はいつまでも上を上を目指して飛んでいた。
ありえない高さから、ヒマラヤ山脈やユーラシア大陸が見えた。
ぼくはなぜか、とてつもない力が胸の奥から湧いてくるのを感じて、
席を立って、その男の方へ歩いていった。
ずっと歩いているようで、いつまでいつまでも、その男に近づくことはできなかった。
この前ひろった玉虫を、花壇に葬ることに決めた。
夕方には太陽が雲間からやさしく照って、
自転車についた雨のしずくを輝かす。
濡れた葉っぱを乾かす。
山では地表に落ちた雨が再び空気中に放散し、
霞となって、雲となって、頂上を隠した。
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