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2011.10.16 蹴火子
金木犀はかなりの距離からでも香ってくるが、その花弁に鼻を近づけてみてもむせ上がるほどの芳香ではない。匂いというのは円周上に均一に広がるのではなく、ある塊のように風にのって限定された範囲だけ強烈に束のように香ってくるのだろう。なにかと似ているけど。


***
仕事を終えて夜、国東のケベス祭りに行く。
東京に暮らしていた頃、「風の旅人」に掲載されていた船尾修の国東の写真を見てから、
ずっと行ってみたい祭りだった。念願かなう。
平日の疲れた夜に行くのに少々覚悟はいったが、なに由緒あるお祭りは人間の都合で土日にまわされたりはしないのだ。あくまで暦の日付に従う。

当日、国東の真っ暗な霧の山々を銀色の兔やたたずむ鹿を尻目に車をぶっとばして向かった。

起源も由来も不明の奇祭とWikiには記されている。
この祭りが執り行われる櫛来社にはシダの束を燃やした火の塊があり、そこにお面をつけた「ケベス」がその火を奪いにくる。それを「トウバ」(当番?)と呼ばれる氏子が阻止しようとガードをしたり棒術のようなものでケベスと格闘する。「ケベス」という名前の語源も不明。「エビス」が訛ったとする説もあるが、ここの神社の祝詞には「蹴火子」と記されてある。この漢字の表情がすばらしい。このケベスのお面もまた素晴らしい。


ケベス



その蹴火子が突入を試みること9回。遂に成功し、その火の塊を激しく掻き乱す。
その瞬間、その火を守っていた氏子の「トウバ」たちがいきなりその燃えたシダの束を棒で引っ掛けて観覧しているわれわれに、火の粉を思いっきり浴びせにかかるところがこの祭りの最高潮となる。境内は男も女も絶叫の地獄絵図のような光景。しかも当日は大雨で地面がぬかるみ、逃げまどうも泥沼に足をとられた続けた。でもこの火の粉を浴びると無病息災で過ごせるとのこと。地元のお婆ちゃんたちは自ら浴びて行ってた。

プロメテウスの火や、どこからやってきたか分からぬ来訪者「蹴火子」は折口信夫の客人(まれびと)論を容易に思い起こさせ、神話の祖型を読み取ってくれと誘われているようだが、そういった解釈に頭を働かせるよりも、この一連の命懸けの火の遊戯に酔い続けていたいと思った。火で追いかけ回されるわれわれは激しく「魂振る(たまふる)」ことになり、劇場の外部にいた高見のわれわれはいきなり内部へと放り込まれ、トランスと言うと大げさだが日常の平穏な意識からは逸脱することとなる。その火の浴びせかけの追い回しがひととおり落ち着くと太鼓が叩かれ、静かに終幕をむかえた。煙が朦々と舞う中、肝心の蹴火子を探すもいつの間にか姿を消していた。


「雲から抵抗へ」の方はしばらくこの時撮ったケベス祭りの光景をアップしていきます。





蹴火子どん



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